【事業レポート】武久源造 チェンバロ on カスケード

2015.6.7

【事業データ】
事業名:カスケード交流コンサート vol.24 武久源造 チェンバロ on カスケード
日時:2015年5月19日(火)12:15開演
会場:いわきアリオス 本館2階カスケード
出演:武久源造(たけひさげんぞう)/チェンバロ奏者
撮影:村井佳史
文:足立優司(企画制作課 第一グループ チーフ)
プログラム:
J.クーナウ/聖書ソナタ第1番~ダヴィデとゴリアテの戦い~
J.S.バッハ/パルティータ 第3番 BWV827

市民の皆様が自由に利用し、くつろいだ時間をお過ごしていただいている、アリオスのオープンスペース《カスケード》は、2階から6階まで吹き抜けの大空間。床と壁面はガラスと装飾コンクリートでできており、その材質と空間の大きさが、ヨーロッパの大聖堂にも似ているといわれます。《カスケード》とは「階段状に連なった滝」の意味で、装飾壁に天窓から光が差し込むと、あたかも水が上から下へと何段にも連なって流れ落ちているようにも見える、というところから名付けられています。

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この《カスケード》で、本館休館日となる火曜日のお昼休み、お仕事の合間や散歩の途中等、様々な年齢の方に気軽にお楽しみいただくために開催しているのが、無料の「カスケード交流コンサート」です。今回はその24回目、わが国を代表するチェンバロ奏者、武久源造さんをお迎えしました。

武久源造さんがアリオスを初めて訪れたのは、震災から1年を経た2012年3月のこと。当時、まだまだ被災の爪痕が深く残り、街の機能も回復していなかった時期に、久保田チェンバロ工房の皆さんと一緒に、武久さんはいわきに来てくださいました。それは、以前より注目されていたアリオス所蔵の「16フィート弦付き2段鍵盤ジャーマン・チェンバロ」が、震災後どうなっているのかを案じ、その手で確かめてみたい、ということだったようです。

バッハの研究で有名な武久さんは、この「16フィート弦」を使ったレジスター(一揃いの弦のセット)にわが国でもいち早く注目して来られ、初めていわきを訪れてから2年後、2014年12月にようやくコンサートが実現。その後も常にいわきのことを気にかけてくださり、今回、2度目のコンサートを実施する運びとなりました。

<参考>アリオス所蔵のチェンバロについては、過去のブログをご覧ください
●市民のためのチェンバロ講座 第1回(上)
●アリオス・チェンバロ物語

* * *

今回は、アリオス所蔵のチェンバロのみならず、モダンピアノの原型 ジルバーマン・フォルテピアノ(武久さんご自身が所有)も使い、2台の楽器の音色をお楽しみいただきました。

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コンサートの始まりは、16フィート弦付きジャーマン・チェンバロを使って、バッハのライプツィヒにおけるカントール(教会における音楽監督)の前任者、ヨーハン・クーナウが作曲した「聖書ソナタ第1番~ダヴィデとゴリアテの戦い~」を、1曲ごとに解説付きで演奏するところから。クーナウは当時の鍵盤音楽のジャンルでは広く知られた人物で影響力もありました。

聖書ソナタは、旧約聖書から題材を取り、物語の描写音楽のスタイルで作曲された作品です。特に「サムエル記 上」に記されたダヴィデとゴリアテの戦いの物語を題材としたこの第1番は、全6曲の中でも最も華やかで人気が高いものです。トーマス教会のカントールという職は教会学校の先生の役目も負い、子どもたち・学生たちに教会音楽の基礎となる聖書の物語を理解しやすい形で教えることも重要な仕事であったので、こうして聖書の中の有名なシーンを題材にした音楽作品を作ったのだといわれています。

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曲は、進軍のトランペットの描写と、それに続けて、身の丈2メートル60センチという、ペリシテ人の軍隊の大将であったゴリアテが、イスラエル軍を脅迫する場面から始まります。イスラエルに対し、有利に戦況を運ぶペリシテ軍からの威圧を描写した音楽です。ちなみに古代ペリシテ人の住んでいた土地を国土としていたことから、現在のパレスチナという名前が生まれていますが、民族的なつながりはないとされています。その脅迫に対して、震え恐れおののくイスラエル人の姿を、短調の旋律で切なく演奏。

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そこに一人の少年が登場します。ダヴィデです。紅顔の美少年で、鎧も兜もつけていません。というのも、戦場に出ていた兄たちを心配して、様子を見に来ていたからです。ただダヴィデは牧童ですので、オオカミを追い払うための投石用のヒモを持っています。そこでダヴィデの勇気が音楽で描かれます。ところがダヴィデは背が小さかったので、ゴリアテは最初、小犬が出てきたのと勘違いするほどで、いかにも小ばかにした態度で挑発します。いよいよ戦いとなりました。ダヴィデは投石用のヒモで、渾身の力を込めて石をゴリアテに投げつけます。音楽が一瞬飛翔するような描写を見せると、石は見事ゴリアテの眉間に命中し、なんとめり込んでしまいました。ゴリアテは急所を石で打たれて、膝から崩れ落ちます。大将が倒されてしまったペリシテ軍は総崩れとなり、われ先にと敗走していきます。それを追いかけ、イスラエル軍はペリシテ軍をさんざんに打ち破りました。イスラエル王国では、戦勝を祝うパーティが行われます。まずは合唱で、続けて笛と太鼓と踊り、そしてそれに続き、群衆たちも踊り祝います。「サウル王は千の敵を倒したが、ダヴィデは万の敵を倒した!」。人々のダヴィデをたたえる歌がいつまでも続くのでした。

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武久さんに物語を説明してもらいながら音楽を聴くと、その場面が鮮やかに目に浮かんできます。

物語としては、その後サウル王は自らの戦功がなかなか上がらないことに焦り、ノイローゼになってしまったため、悪夢に悩まされるようになります。そのサウルを竪琴の演奏で慰めたのも、ダヴィデでした。ダヴィデはサウルの王子ヨナタンの親友にもなり、王を支えようとしますが、ダヴィデの国民からの支持と人気を恐れたサウルは、神の示した道を踏み外してしまい、ついに無理な出陣の末、ヨナタン共々自決によって命を絶ってしまうのでした……。こうして、続くソナタ第2番以降ではなかなか重いドラマが描かれていくのですが、結果的にイスラエルは第2代の王ダヴィデの時代に繁栄し、第3代ソロモン王の時に栄華を誇ることになります。

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「音楽による紙芝居」のような演奏を聴いた後、今度は、バッハ作曲「パルティータ 第3番」BWV827。全6曲のパルティータは、先述のクーナウが出版して広く知られていた「新クラヴィーア練習曲」に倣い、バッハもライプツィヒのトーマス教会カントールとしての成果を残そうと、「クラヴィーア練習曲集第1巻 作品1」として出版したもの。

武久さんがこの全6曲をジルバーマン・ピアノで演奏したCDが発売となりましたが、今回のコンサートでも、生でジルバーマン・ピアノの演奏を堪能することができました。

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ファンタジア(幻想曲)~アルマンド(ドイツ風舞曲)~コレンテ(イタリア風舞曲)~サラバンド(中米・スペイン風舞曲)~ブルレスカ(皮肉を込めた笑い)~スケルツォ(諧謔)~ジーグ(イギリス・アイルランド風舞曲)と、20分に及ぶ作品を一気に演奏され、ご来聴の皆さんもその演奏に惹き込まれ、じっくりとお楽しみいただけたようです。

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ジルバーマン・ピアノには、弦を1本だけハンマーが打つ「ウナコルダ」のほか、チェンバロの音色を真似た「チェンバロ・ストップ」(薄い木の板を垂直に弦に当てて響かせるもの)が備えられ、また、ダンパーを全て解除する機構もつけられているため、様々な表現が可能となっています。この「ダンパーの全解除システム」は、1700年当時にヨーロッパで一世を風靡したダルシマー(ツィンバロン)奏者、パンタレオン・ヘーベンシュトライトの楽器と演奏からヒントを得たものといわれています。

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演後には多くのお客様が楽器の周りに集まり、技術者の梅岡俊彦さんの説明を熱心に聞いておられました。

一方では武久さんが、お客様と談笑する場面も。
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カスケードコンサートの翌日には、「武久源造 チェンバロ 公開マスタークラス」も開催しましたので、次回はこの模様をお伝えします。

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