【さきどりアリオス】「第7回 NHK交響楽団 いわき定期演奏会」演奏楽曲《嘆き》 作曲者:細川俊夫さんによる楽曲解説!

2017.12.11

東北で唯一いわきで開催されている「NHK交響楽団 定期演奏会」の7回目は、世界的指揮者でN響との強いパートナーシップで知られるシャルル・デュトワさんが登場。プログラムの中でも注目は、日本を代表する現代作曲家・細川俊夫さんが、東日本大震災で辛い思いを抱えてもなお生きる母親に捧げた《嘆き》(ザルツブルク音楽祭 委嘱作品 2013)。2013年のザルツブルク音楽祭にて初演され、絶賛された楽曲を、初演と全く同じメンバーで再演する公演の最終地点が、「第7回 NHK交響楽団 いわき定期演奏会」(2017年12月17日(日)開催)です。この演奏会開催に先立ち、《嘆き》の作曲家、細川俊夫さん自らの楽曲解説が届きましたので、ご紹介します。


 ザルツブルク音楽祭 2013  《嘆き》演奏後のカーテンコールにて ©Wolfgang Lienbacher

 シャルル・デュトワさん(指揮) 細川俊夫さん(作曲) アンナ・プロハスカさん(ソプラノ)
 NHK交響楽団(管弦楽)


<作品>
ソプラノとオーケストラのための『嘆き』(ゲオルク・トラークルの詩による) 
細川俊夫 作曲
“Klage” for soprano and orchestra (text by Georg Trakl)
ザルツブルク音楽祭委嘱作品2013
アンナ・プロハスカに捧げる。  

この作品は、ザルツブルク生まれの詩人 ゲオルク・トラークル(1887-1914)*のほとんど最期の詩『嘆き』と、彼の編集者で友人であるルードヴィッヒ・フォン・フィッカー(Ludwig von Ficker)に送ったトラークルの手紙からの断片を組み合わせて、歌詞とした。この歌詞構成は、友人の文学学者ラインハルト・マイヤー・カルクス(Reinhart Meyer-Kalkus)による。
 『嘆き』の詩の中にある一節、”Es klagt die dunkle Stimme ueber dem Meer”(暗い嘆きの声が海を越えて響く)を作曲の出発点とした。この作品では、ソプラノは女性,オーケストラは海を象徴し、女性は海のそばの海岸をさまよい歩き、海に向かって歌ってゆく。

 第1部は,短い前奏曲。天体の鼓動をイメージした低音の弦楽ピチカートと打楽器の大きな間を空けた音響が静かに打たれて音楽は始まる。この作品では全般にわたって、背景に天体の鼓動としての打楽器音が、間を空けて、休むことなく繰り返される。そして海の波動をイメージする弦楽器によるクレッシェンド、デクレッシェンドが静かに運動を始める。
 第2部は,トラークルの手紙の語りと歌。波の音響に重なるように、ソプラノがトラークルの手紙をゆっくりと語り、歌い始める。
 第3部は、間奏曲。打楽器を中心の波の運動が静かに盛り上がってゆく。
 第4部は、詩『嘆き』。この詩の持っている狂気が、ソプラノの激しい身振りを持った歌によって歌われ、オーケストラも全オーケストラで咆哮する。
 第5部は、『嘆き』の後半の「暗い嘆きの声が海を越えてひびく」という内容を、少しずつ静まりながら歌われる。海は再び静かな情景を、取り戻してゆく。

 この作品を最初に思いついたのは、2011年3月11日の東日本大震災の津波で子供を失った母親が、いつまでも見つからない子供の遺体を探して、海岸を歩き回っている写真を観たからである。私は一人の女性が、深い悲しみを歌うことによって、癒されてゆくような音楽を書きたいと思った。
 それと同時に,2012年夏ザルツブルク音楽祭を訪れたときに、私はザルツブルクのいくつかの場所でトラークルの詩の石碑を見つけた。トラークルの詩をテクストとして私は2009年に『星のない夜』(Sternlose Nacht)という大きなオラトリオを作曲していた。そしてこの『嘆き』を発見して、ザルツブルク音楽祭の委嘱作品として、このテクストが最もふさわしいと思うようになった。
 私はシャーマニズムの強い関心を持っている。この世とあの世とシャーマンの歌によって結びつけようとするのが、私にとっての音楽である(私のオペラ『松風』も同じような内容を持っている)。アンナ・プロハスカという極めて魅力的なシャーマン*2を歌手として、一人の女性が歌によって失われたものとの結びつきを取り戻そうとする強い音楽を、私は作曲したいと願った。

* ゲオルグ・トラークル=オーストリア、ザルツブルク出身の夭折の詩人。裕福な家庭で芸術や音楽にも親しんで育つ過程で詩作を行うようになるが、安定しない人生や暗い時代を辿るであろう現実への絶望から精神的に不安定な状態に陥り、第一次世界大戦直前に薬物の過剰摂取により自殺した。色の表現に特徴のある数少ない遺作は、哲学者ウィトゲンシュタインなどからも評価され、20世紀の芸術運動ドイツ表現主義を代表する存在とも言われる。



 ザルツブルク音楽祭 2013 より  ©Wolfgang Lienbacher

 この《嘆き》という楽曲の制作経緯を読むと、東日本大震災で大きな被害を受けた方が多数いらっしゃる、このいわきの地で演奏されることに、意義深いものを感じます。《嘆き》のほか、“交響曲の父”と言われるハイドンが円熟期に書いた「交響曲第85番《女王》」、メンデルスゾーンが旅先のスコットランドの情景をオーケストラの音色に映しあげた「交響曲第3番《スコットランド》」と、古典から現代まで幅広いレパートリーを弾きこなすシャルル・デュトワさん×N響ならではのプログラム。どうぞお聴き逃しなきよう。


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