【アリオスペーパーvol.59】 いわきアリオス 開館10周年記念
対談 柳家小三治(はなし家) 小山実稚恵(ピアニスト)

2018.2.7

  
 アリオスペーパー 対談 柳家小三治 小山実稚恵
(撮影:橘蓮二)

いわきアリオスはおかげさまで2018年4月に開館10周年を迎えます。
それを記念して、アリオス絶対おすすめの2公演をお贈りします。まず4月7日(土)は落語界唯一の人間国宝、柳家小三治さんが登場。そして14日(土)は、大ホールのピアノの選定者で、当館の記念公演にいつも華を添えてくださるピアニスト・小山実稚恵さんの演奏会を開催します。
アリオスペーパーでは、公演を前に、このおふたりの紙上対談を企画しました。異色に思える組み合わせですが、長年、表現の道を極めてきた者同士の会話は、私たちが抱く「落語」「ピアノ」のイメージに、新鮮で深い視点を与えてくれるはず。
さぁ、あとはアリオスでこのおふたりが達した境地に触れてみてください。


■プロフィール
柳家小三治(やなぎや こさんじ)はなし家
1939(昭和14)年、東京都生まれ。59年3月、五代目柳家小さんに入門し「小たけ」。63年4月、二ツ目昇進「さん治」。69年9月、真打昇進と同時に「十代目柳家小三治」を襲名。2010年6月から14年6月まで落語協会会長を務める。14年10月、重要無形文化財保持者(人間国宝)認定。主な受賞・受章には芸術選奨文部科学大臣賞(04年)、紫綬褒章(05年)、旭日小綬章(14年)がある。著書に『落語家論』(ちくま文庫)、『ま・く・ら』『バ・イ・ク』(講談社文庫)、『柳家小三治の落語』(小学館文庫)、DVD『落語研究会 柳家小三治全集』(小学館)などがある。
いわきアリオス落語会には、いわき市制50周年を記念して開催した「柳家小三治独演会」(16年4月)以来2度目の登場となる。

小山実稚恵(こやま みちえ)ピアニスト
チャイコフスキー、ショパンの二大コンクールに入賞した唯一の日本人ピアニスト。ショパン・コンクールを始め、チャイコフスキー、ロン=ティボー、ミュンヘン他のコンクールで審査員を務める。2011年の東日本大震災以降、被災地の学校や公共施設等で演奏を続け、仙台では2015年より自ら企画立案したプロジェクト『こどもの夢ひろば "ボレロ"』も開始。CDは 『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』他、ソニーより30枚をリリース。2005年度 文化庁芸術祭音楽部門大賞、2015年度 文化庁芸術祭音楽部門優秀賞、2016年度 芸術選奨文部科学大臣賞、2017年度 秋の褒章にて紫綬褒章受章。
いわきアリオスには、2008年、10年、11年、13年と節目の公演に必ず登場している。





撮影:橘 蓮二(たちばな れんじ)
企画・構成:いわきアリオス演芸班
 ※この対談は2017(平成29)年11月に行われました。

アリオスペーパー 対談 柳家小三治 小山実稚恵柳家小三治 今日、この会場に来るまでの間、頭の中であなたのピアノの音が流れていたんですよ。(歌う)♪タン・タ・タン・タン・タン・タンタターン・タターン〜って。昨日あなたのCDを聴いたんです。シューベルトの……

小山実稚恵 即興曲ですね! ありがとうございます。

小三治 いま、富山の高岡に嫁に行った3歳下の妹が帰省していて、彼女は小学校で音楽教師をしていたから「小山実稚恵さんと対談するんだ」って話したら、「お兄ちゃんずるい。日本で一番のピアニストと会うなんて」と言っていました。一番、二番って順位をつけるところが学校の先生らしいと思ったんだけどね。そこであなたに訊きたかったことがあります。音楽家が世の中の注目を浴びるためには、やはりコンクールで一等賞や二等賞になるしかないのですか?

アリオスペーパー 対談 柳家小三治 小山実稚恵小 山 入賞は大きなきっかけにはなるかもしれないけど……。でもおそらくコンクールでは本当の順位はつけられないのだと思います。どういう順番で演奏するかによってピアノの状態も異なるし、似たような雰囲気の演奏をする人が続くと、聴いている審査員の印象も変わってくることもありますし。

小三治 そもそも審査員が誰かによっても違ってくるし。

小 山 そうですね。

小三治 はなし家の場合、賞をとっていようが、真打ち(しんうち)だろうが二ツ目(ふたつめ)だろうが前座(ぜんざ)だろうが、寄席(よせ)で見れば「面白いか」「面白くないか」ははっきりわかるけれど、クラシック音楽だと、みんな「いい」「悪い」がわからなくて聴いているかもしれないですね。
 実は私も最初はそうでした。ひと頃、夢中でクラシックを聴いた時期があったけれど、当時は専門誌の「レコード芸術」で評論家が特選に推しているからとか、世間の評判がいいからとか、コンクールで一等賞の人の録音だから素晴らしいに違いないと思って聴いていました。でもそのうち飽きちゃった。今はわかります。絶対的な一番はないと思いますが、「私にとっての一番」はありますよね。それが最高の評価だと思うのです。

小 山 演奏家にとってはそういうふうに聴いてもらえることって一番嬉しいことなんです。

アリオスペーパー 対談 柳家小三治 小山実稚恵


「東北」が、ふたりにもたらしたもの

小三治さんがいわきアリオスに初登場したのは2016(平成28)年4月。落語の本題に入る前にはなす「まくら」で、少年時代、常磐線に乗って通過した「平駅」の思い出を「たっぷり」語っていました。1939(昭和14)年、東京・新宿生まれの師匠ですが、ご両親は宮城県の出身。一方の小山さんも宮城県仙台市に生まれ、中学2年までを岩手県盛岡市で過ごしました。
「東北」がおふたりにもたらしたものとは?


アリオスペーパーvol59 柳家小三治 小山実稚恵小三治 太平洋戦争のとき、疎開先が岩沼だったので、仙台が空襲にあったときも、岩沼から仙台の夜空を見ていました。戦争のあともよく宮城に帰っていました。だから私にとっての「ふるさと」といえば宮城、東北なんです。そして盛岡は何十年も落語会で訪れている、ご縁の深いところ。それでね。今日ここに来るまでに色々考えていたのだけど、あなたの本質はどこか「恥ずかしがり」なところにありますよね。

小 山 激しくそう思います。

小三治 私もそうなんです。今日、小山さんに会うのもすごく恥ずかしかった。その恥ずかしがりというのが、まさしく東北の血というか、土地の醸し出すものだと思います。
 私の母の弟、叔父が軍隊に行きましてね、東北の人と、九州の人が同じ部隊だったというんですよ。それで昼休みに日向ぼっこしながら皆で靴を磨いていると、向こうから上官が来るんですって。すると東北のやつは建物を盾にして、なるべく見つからないようになんとなく隠れるけど、九州のやつは靴を置いて前に出て、わざわざ「おはようございます!」と敬礼するんだって。それが九州と東北の違いだと言っていました。まったくそうだと思うんですよ。

小 山 ふふふ。私もすごい恥ずかしがり屋で、何かあったら端っこに行きたい、陰に隠れたいと思うときもあれば、急に猪突猛進に出てみたりというような、変な二面性があって……。

小三治 それがあなたの音楽をつくっているんだね、きっと。

小 山 だから時々、自分はどうなっちゃってるんだろうって思うことがあります。そのどちらも自分という気もするし……。

小三治 それはやっぱりピアノがあるからじゃないんですか? ピアノがなかったら、そういう問いかけを自分にしなかったかもしれない。楽器を相手にしていると、そういう「問いかけ」と「答え」のやりとりが「音楽」になって出てくるんじゃないかって思ったんですけどね。私のはなしの場合も、きっとそういうところがあると思うんですよ。だって、はなしもそうだと思いますが、音楽も、最後は「人間」でしょ。よくいえば「人柄」。やはり「人間」の勝負ですよね。


小山さん、小三治さんの奥義に迫る

 小山さんは昨年2017年に『点と魂と − スイートスポットを探して』(KADOKAWA)をいう本を出版しました。工藤公康(福岡ソフトバンクホークス監督)、高橋尚子(シドニー・オリンピック金メダリスト)、羽生善治(棋士)、熊川哲也(バレエ・ダンサー)、野村萬斎(狂言師)といったトップ・アスリートや芸術家に、パフォーマンスの極意を尋ねた対談のエッセンスが、1冊に凝縮されています。その小山さんが、小三治さんの“スイートスポット”を探ります。

アリオスペーパー 対談 柳家小三治 小山実稚恵小 山 師匠のはなしをお聴きしていると、いつもあの「間(ま)」が素晴らしいと思うのです。うわーっと畳み掛けるときもあれば、本当にギリギリのところまで間を置くこともある。あの間は、どうやって取られるのでしょう? 相手の時間に委ねているのか、自分の間で、はなされているのか……。

小三治 ううん、なんなんでしょうね……。

小 山 たとえば私はレコーディングのとき、お客さんのいない空っぽのホールで録音します。そうすると不思議なことに、自分ではいいと思う間合いで弾いたつもりだったのに、編集のときに改めて聴くと、「あれ、これって自分の間合いかしら?フレーズの終わりがちょっと間延びしている……」と思うことが結構あるんです。

小三治 そうですか。

小 山 ホールの響きってとても微妙なので、聴衆が入った状態と空っぽの状態では、ピアノの音も響きも全く変わってしまう。もちろん物理的にも洋服などで音が吸収されてしまうのですが、それだけでなくて、そこにいる人たちの気配を感じて最後に音を切ったり、テンポを決めたりすることが多いんだと思うんです。だから逆に誰もいないと、うーん、ちょっと間延びしているみたいなんです。
師匠の場合はもう何年も前のことになると思いますけど、たとえばお部屋でお一人で稽古している場合と、お客さんのいないところで録音された場合、また寄席や劇場でお客さんを前にしているときとの違いはあったのでしょうか……(と言いつつ小三治さんとの間合いを詰める)。

小三治 あんまり迫ってこないでよ(笑)。だんだん前に出てきてるよ。俺も前に出ちゃうよ(笑)。

小 山 でも二度とない機会だと思うから、どうしても尋ねてみたかったんです。

小三治 うーん。これは私にとっても昔のことじゃない。いつも同じようなことを考えているから、今のことでもあるんですよ。あなたの話を聞きながら、自分はいつからお客さんがいないところで録音するのをやめたのか、ということを考えていました。あるときまでは観客なしで録音していたこともあったんです。

小 山 ありましたか。

小三治 でも客がいないところでやる藝は、本当のものじゃないと思っていましたから。落語の場合、お客さんの息づかいによって、自分の息づかいがつくられるということもありますからね。音楽家の参考にはならないかもしれないけれど。

小 山 いえ、とても参考になります。

小三治 でも落語をやっているときは、本当は聴いている人のためにやらないんですよ。

小 山 えっ? そうなんですか?

小三治 やっちゃだめなんですよ。実際は聴いている人のためにはなしかけているし、「まくら」のときは私がお客さんとやりとりしていますが、はなしの本題に入ったらば、もう聴いている人は関係ない。自分だけの世界です。そこにお客さまが入ってくれるのかくれないのかだけですよ。

小 山 ……。

小三治 ええ。そこに誰かを意識したら、そこで流れが崩れますから。

小 山 (大きくうなずく)。

小三治 せっかくそれまで乗って来たお客さんに、パッと何か面白いことを言おうとか、いつもと違うことをやってみようとか、そういう自分の気持ちが入ると、スッと逸れるんですよね。自分もお客さんも乗ってきて、「その先どうなるの?」と思っているところで何かをやると、そこに笑いが入ったりしますよね。そういう笑いを「自分がウケてる」と思っちゃう、愚かさですね。そうではなくて、あくまで「そこ」へ入っていくという。それだからこそ最後の大団円が迎えられるわけですよね。

小 山 お客さんを、そういう気持ちにさせられるかどうかですよね。

小三治 たとえばベートーヴェンの第九で盛り上がっているところに、途中でふざけながらジャズとか歌謡曲を入れたりしたら、ああいうふうにならない。って、ちょっと違うはなしになっちゃったけど、お客さんといるときといないときとで、全然違いますよね。

アリオスペーパー 対談 柳家小三治 小山実稚恵


クラシックを“卒業”して
「自分の耳」ができた


小三治 先ほどボクはクラシックを聴くことに飽きたと言いましたが、昔は自分に自信がなかったんでしょうね。だから世間のひとが「いい」というものがいいと感じるようになれば、自信が持てるって思っていた。でも、それはなんか違うんじゃないかと思い始めて、それらを脱ぎ捨ててしまった。
そこからしばらく経つと、なんにもわからずに、ふと街角かどこかで聞こえてくる女の子が弾いているピアノでも、「おや!」って思ったり……。そういうふうに感動する方が、ずっと素敵だと思ったんですよね。

小 山 本当にそうですよね。

アリオスペーパーvol.59対談 柳家小三治 小山実稚恵

小三治 夢中で聴いていたころは、もうこなすばかりでね。感じることができなかった。でも、今は本当の耳で「あら! これはいいな」と思ったものだけが、本当にいいものだと思うようになりました。

小 山 それもすごくよくわかります。

小三治 それで実稚恵さん。私はこのあいだ、ある集まりであなたが演奏されたときに、ピアノのすぐ近くで聴きましたが、もう感動しました。なんというのか、あなたの懐の大きさというか、音楽の構えの広さというか、短い時間だったけど、そういうことを感じさせてもらって、「この人、本当にすごいな」と思ったんです。

小 山 いえ、私なんてまだまだ……。

小三治 あの音色、もう有無を言わせないものがあるよね。そんな気持ちがあなたにはないから、そう思うんですよ。本当にふつうに弾いているだけなのに、音楽の深さ、大きさ、幅広さ、高さ。音色はどこまでもやわらかく、どこまでも深く、まるく、どんなにきつい音を弾いても、それは保っている。
CDを聴いても、ピアノから「木の音」を引き出しているんですよ。もちろんピアノは鉄の輪組み(フレーム)だし、フェルトで弦を叩いていますが、木の音がきこえる。嬉しかったですね。あの音を思い出すと、ちょっと涙が出てきます。クラシックは“卒業”したけれど、その後にあなたにお会いできて、本当によかったと思った。
うん、実稚恵さんはボクの中での一等賞だ。

小 山 (顔を覆って)そんなぁ……。でも私は以前、師匠が演じた『青菜』をお聴きして、そのギリギリの間というか、私では持てないような「勇気」にびっくりしました。極意だと思いました。「間」って大切なんだけど、狭くなったり、間延びしたり……。その加減は口では言えないし、たぶん誰からも習えないことなんだと思いますが、こういう勇気は、もっと人生を経験すると持てるのかなと思いました。どうもありがとうございました。

アリオスペーパー 対談 柳家小三治 小山実稚恵

アリオスペーパー 対談 柳家小三治 小山実稚恵


■公演情報■
いわきアリオス開館10周年記念
第15回いわきアリオス落語会 柳家小三治 柳家三三
(さんざ)
〔日 時〕2018年4月7日(土)14:00開演
〔会 場〕いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場
〔料 金〕1階席4,000円 1階GLR席 2,500円 2階席・各階バルコニー席 2,000円
     学生は全席1,000円(未就学児入場不可)
     「小山実稚恵ピアノ・リサイタル」との2公演セット券 5,000円(100セット限定)
〔発売日〕2018年2月10日(土)10:00~
公演&イベントガイド「第15回いわきアリオス落語会 柳家小三治 柳家三三」

落語界で唯一の「人間国宝」(重要無形文化財保持者)である柳家小三治さん。いわきアリオス初登場だった2016年4月の公演は発売早々に完売し、今回、熱いリクエストに応えての再登場となります。今回は小三治さんのお弟子さんで、現在都内ではチケットの入手が最も困難といわれる人気落語家、柳家三三さんとの師弟競演でお楽しみいただきます。

いわきアリオス10周年記念公演
小山実稚恵 ピアノ・リサイタル ~10年の時を刻んで

〔日 時〕2018年4月14日(土)14:00開演
〔場 所〕いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
〔料 金〕一般 3,000円、学生 1,000円(未就学児入場不可)
〔発売日〕2018年1月27日(土)10:00~(1回券・セット券とも)
公演&イベントガイド「小山実稚恵 ピアノ・リサイタル ~10年の時を刻んで」

日本ピアノ界の第一人者で、2017年11月には紫綬褒章も受章した小山実稚恵さんは、当館大ホールに保有する2台のピアノの選定者。2008年4月の開館記念公演にも出演しています。仙台生まれ、盛岡育ちの小山さんは東北への想いが深く、震災後、いわき市民への無料公演や「おでかけアリオス」小学校公演のために来市し、音楽で我々の背中を押してくださいました。今回は10年の時を経て成熟した大ホールのピアノの響きを、皆さまにお届けします。

〔ご予約・お問合せ〕
 アリオスチケットセンター 電話 0246-22-5800(10:00〜20:00 毎週火曜定休)
  ※2018年2月13日(火)、3月13日(火)は全館休館日

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