【アリオス・アーカイブス3】小山実稚恵(ピアニスト)&立川志らく(落語家)サプライズ対談(2010年1月収録)

2018.3.14


アリオスペーパー12 対談 小山実稚恵 立川志らく 撮影:鈴木穣蔵
(撮影:鈴木穣蔵)

先日発行された広報紙アリオスペーパーvol.59の特集では、2018年8月のいわきアリオス開館10周年記念公演に相次いで出演される、はなし家の柳家小三治師匠とピアニスト小山実稚恵さんの対談をお楽しみいただきました。
このブログでもすでにその全文を読むことができます。
【アリオスペーパーvol.59】特集 対談 柳家小三治(はなし家) 小山実稚恵(ピアニスト)

落語にピアノ、それぞれの道を極めたおふたりならではの覚悟が共鳴しあう対談でしたが、実は小山さんは8年前の2010年にも落語家と対談をしております。いまTBS系「ひるおび」のコメンテーターとしても大人気の立川志らくさんがそのお相手。おふたりは、奇しくもこの年に「デビュー25周年」を迎えられ、同時期にいわきアリオスで公演を行うという縁で、対談をお願いしたのでした。

年齢が近いこともあって、「落語」と「音楽」の共通点から、「藝は盗める? 盗めない? 」問題まで、息がぴったりだったおふたり。志らくさんはその後出版した「落語進化論」(新潮社、2011年)でも、対談時のエピソードを紹介しています。ということで、今回はその対談をほぼそのまま本ブログに再掲載します。どうぞお楽しみください。



 ※この対談は2010(平成22)年1月に行われました。

神様は時々粋な計らいをしてくれる……
いわきアリオス3年目の2010/11シーズンは4月、この劇場(ハコ)に縁の深い落語家・立川志らくさんとピアニスト、小山実稚恵さんの公演で幕を開けます。
このおふたりに意外な共通点が判明したのは、つい最近のこと。おふたりとも、なんと今年(2010年)がデビュー25周年だというのです。しかも、同じ1985年の10月に、小山さんはショパン・コンクールで第4位入賞を果たし、志らくさんは、立川談志師匠に入門しているという奇遇!
そこで今回は、クラシックと落語、分野は違えど同じ時代を歩み、いま名実ともにそれぞれの世界を代表するおふたりの対談をお贈りします。
実稚恵と志らく、「未知との遭遇」の場に、さぁお立ち会い!

■プロフィール
小山実稚恵(こやま みちえ)ピアニスト
チャイコフスキー、ショパンの二大コンクールに入賞した唯一の日本人ピアニスト。ショパン・コンクールを始め、チャイコフスキー、ロン=ティボー、ミュンヘン他のコンクールで審査員を務める。2011年の東日本大震災以降、被災地の学校や公共施設等で演奏を続け、仙台では2015年より自ら企画立案したプロジェクト『こどもの夢ひろば "ボレロ"』も開始。CDは 『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』他、ソニーより30枚をリリース。2005年度 文化庁芸術祭音楽部門大賞、2015年度 文化庁芸術祭音楽部門優秀賞、2016年度 芸術選奨文部科学大臣賞、2017年度 秋の褒章にて紫綬褒章受章。いわきアリオスには、2008年、10年、11年、13年と節目の公演に必ず登場している。


立川志らく(たてかわ しらく)落語家
1963(昭和38)年、東京都生まれ。1985(昭和60)年10月、立川談志に入門。1988(昭和63)年3月、二ツ目昇進。1995(平成7)年11月、真打昇進。2017年9月現在、一門は弟子20人をかかえる大所帯となっている。
現在、TBS系「ひるおび」月〜金第1部(10:25〜11:30)のレギュラーコメンテーターをはじめ、映画監督(日本映画監督協会所属)、映画評論家、エッセイスト、昭和歌謡曲博士、劇団主宰と幅広く活動。
「いわきアリオス落語会」には第1回〜第5回、第9回、第10回記念落語会、第14回と過去8回出演。「アリオス大衆芸能審議会」第2回「落語編」(2017年3月29日開催)では「柳田格之進」を口演。


撮影:鈴木穣蔵(すずき じょうじ)
企画・構成:いわきアリオス演芸班

小山実稚恵さん小 山 今日はお目にかかるのを、とても楽しみにしていました。志らくさんは小さい頃にピアノを習っていらっしゃったんですね?

志らく はい、小学生から中学生のころに。もともと父親がクラシックのギタリストで母親が長唄のお師匠さんでしたから、音楽的環境はあったんです。ピアノは当時ほしかった自転車を買ってやると言われ、無理やりですね。私は音楽家にとって一番大切な「音感」はあると思うんですよ。ピアノ、ギター、オカリナでも、好きな歌謡曲だったら何でも音は拾えるんです。それって人間としてふつうのことだと思っていたら、周りの人が驚くんです。「なんで拾えるの?」って。だから音楽の才能はあったと思いますね。けれど無理矢理ってのはダメ。もう、いやでいやで……。それがなかったら音楽家になっていたのかもしれません。
小山さんと落語の出会いなんか、ないですよね?

小 山 大学のときに学校が上野にあったので、友だちと鈴本演芸場に行ったり、新宿末廣亭に行ったり、本当にその程度……。今度必ず師匠の落語会を観に行きますね。


落語にもメロディとリズムがある

アリオスペーパー対談 立川志らくさん志らく 私、落語と音楽はものすごく結びつきが強いと思っているんですよ。だからふつうに立川談志(1936(昭和11)〜2011(平成23))の影響を受けて入門した人と、音楽を知っている人とでは、たぶん「耳」が違うと思います私は子どもの時分から三味線やギターを習っている。隣の親戚のおばちゃんはお箏(こと)を、弟はヴァイオリンをやっている。それがのべつ流れているから、音楽を聴き分ける「耳」があると思うんです。だから談志の落語を聴いた時に、「プロのリズムってこういうもんなんだ!」って思っていました。なぜ談志が売れているかというと、談志にしか出せないメロディを持っているから。「リズムとメロディがあるんだな、落語には」と。これは、あまり音楽を聴いていない人は気づかないと思います。
入門して初めての稽古をつけてもらったのは、「道灌(どうかん)」という簡単な古典落語。談志はお客の前ではガーっとやるのを、稽古だから自分の個性を押し消し、淡々と無表情でやるんです。それがなんとも心地よいリズムで、音楽を聴いているようだった。「これが本当のリズムなんだな」と思いました。

小 山 失礼な質問かもしれないけれど、伺ってみたいことがあったんです。ピアノには楽譜があるでしょ? 落語の演目も、内容はある程度アレンジできるけれども、一応オーソドックスな筋はあるのですよね?

志らく そうですね。クラシックの場合は、たとえばモーツァルトのように作者がはっきりしていますが、古典落語は作者不明ですから江戸時代からあります。楽譜はないけど、基本的な楽譜のようなものはあるんです。

小 山 それは記載されているということですか?

志らく 「速記本(そっきぼん)」というものがあります。

小 山 あるにはあるのですね?

志らく でも覚えるのは速記本を暗記するのでなく、師匠からの口移しなんです。

小 山 なるほど。クラシックで言うならば、たとえばJ.S.バッハという作曲家の作品は宗教音楽なのにジャズになったり、ポップスになったり、いろんな音楽にアレンジされる適応力があります。でも、ショパンの作品だと、やはりピアノという楽器のために作られているから、あまり他への応用がきかない。それと同じように、落語も演目や内容によって変化させにくいものもあるのですか?

志らく 作品によってはありますね。昭和40年代(1965〜74年)くらいまでは、まだまだ封建的だったので、落語に対する好事家(こうずか)みたいな評論家がいっぱいいて、「美学」中心だったんですよ。だから、ちょとはずれたことをやると「邪道」と言われて、できなかったんです。それを立川談志なんかがどんどん改革して、いまはその影響を受けた若い落語家がたくさん出てきました。
いまの時代は、クラシックをちょっと変えたり、ロックにしたり……。私は、自分の落語はクラシックをジャズにしていると思いますが、春風亭昇太さんなんかは、どちらかというとロック。うわーっとやってる。長いことクラシックをちょっといじるくらいの人がたくさんいましたが、それでは広がらない。どんどんマニアックな世界になってします。今はロックもいれば、ド演歌もいるし、クラシックもいれば、ブルースも、フォークも、ニューミュージックもいる。いろんな人がいるから、若い人のやる落語には個性があります。

編集部 「落ち」を変えたりする場合もありますね。

志らく 「落ち」がわかりにくければ変えるし、演出もガラっと変えたり。なかには変えすぎて「改作」と言わざるを得ないようなことをする人もいます。私は「改作」まではいかずに「落ち」を変えたり、違うギャグをいっぱい入れたり、人物設定を変えてみたり、ふたりの掛け合いの会話もまったく違うものにしてみたり、そういうやり方をしています。


稽古なんざする奴は……

アリオスペーパーvol12小山実稚恵&立川志らく対談志らく 私も小山さんに訊いてみたいことがあって……。私はよく弟子に「落語の稽古をしろ」と言うときに、ピアニストを引き合いに出すんです。ピアニストは音楽学校に行っている間は1日10時間練習する。それを4年間やり通しても、スターになれるんじゃなくて、とりあえず皆さんにお聴かせして「あ、いいね」と言われるレベルになる、と。ピアニストがそうやってるんだから、「落語家も前座修業のうちに1日10時間ずつ4年間やれ」ということを言うんですよ。で、何が言いたいかというと……

小 山 続きがあるんですか?(笑)

志らく ええ。それで最近になって、私の師匠の談志が「稽古をするような落語家に、ろくな落語家はいねぇ」って、通りすがりに言ったんです。

小 山 通りすがりに? つぶやくように?

志らく 誰に言うともなく……たぶん私に言っているのだけど(笑)。それがドーンと残った。私は弟子に「1日10時間ずつやれ」と言っているじゃないですか。それで考えた。で、わかったのは、基礎をつくっていく段階ではそれくらい夢中にならないといけないということ。でも、30、40、50歳になってもいまだに「稽古が一番だ」と言う人がいっぱいいるわけですよ。それを談志は批判しているのだと……。つまり、皆がもっと喜ぶような表現豊かな落語にするには、「何か」がないといけないのではないかと。たとえばインドの山奥へ行って、人生経験、価値観が変わる体験をするとか、自分が尊敬するものすごい人と会って話をするとか、大失恋をするとか、そういうことが稽古するより大事だ、と談志は言っているんだと気づいたんです。
談志も落語家としてすごくなったのも、タレント議員がはしりの時に参議院議員になってからです。当時は「横道にそれた」と批判されたけれども、その経験があるから「談志」というキャラができたのだと思います。で、小山さんに伺いたいのは、ピアノの場合、10時間は大げさだとしても、ある程度練習を積んだという経験が、のちのち活きてくるんですか?

アリオスペーパーvol12 小山実稚恵 立川志らく 対談小 山  いまおっしゃった、若い人の手とかが発達するまで、弾けないのが弾けるようになる技術を身につける練習は絶対に必要です。だから積み重ねの練習、特に技術面での習得のための練習は、やはり欠かせないんですよね。でもそのあとはね、自分の方法をどうやってみるけるかだと思います。だって、皆がカール・ルイス(元100メートル世界記録保持者/1984年ロサンゼルス・オリンピックなどで金メダル)の練習をしたって、カール・ルイスになれるわけはないでしょう? それと同じように、手だって千差万別だし、楽器だって、違ったホールにあるピアノを私たちは弾くわけだし、ホールの響きも違うから、毎回新しい環境にどうアジャスト(適応)するかなんです。違う楽器でも同じようなものを出すことをしなくちゃいけない。やはりふだんから自分が自由で、そこにアジャストできるようにしないと。だから結局は自分がどう弾きたいということなんですね。ただ、弾きたい音色をイメージし、自分の音楽を表現する技術を磨くということなのです。

志らく 自分のイメージする音を出すことが?

小 山 そうですね。とても難しい。気持ちがこうあっても、ここ(腕)を伝わって出るうちにそれが縮小されていく。そこには自分の肉体的、技術的な問題があれば、気持ちの弱さもあるだろうし、その日の楽器の状態も……。だから、それが想っている音を出そうと思ったら、その千倍くらい想わないと出せないんです。


藝は「盗める」もの?

小 山 志らくさんに、もうひとつ、お訊きしたいことがあったんです。自分のなかでも気になっていることなのですが、よく「藝は盗め」と言いますが、本当に盗めるものだと思いますか?

志らく いや、盗むことはできないですね。

小 山 やっぱりね! やっぱりそうですよね。

アリオスペーパーvol12対談 小山実稚恵&立川志らく志らく 私の弟子の落語を聞いていると、私がつくったギャグやフレーズを平気でどんどんやっている。でもそれは簡単なんです。「盗む」とはそういうことじゃなくて、「了見(りょうけん)」と「センス」なんです。これは、ちょっとやそっとじゃ盗めない。「盗む」んじゃなくて、「影響を受けて、気がついたら自分の体に入っていた」ということだと思います。だって、「立川談志」という顔、人生、その体から出てきた言葉だから面白いことを、弟子の私がいくら言ったって、フィルターがまったく違うから無理なんです。盗むとするならば、一体どういう発想をしたらこういう言葉が出てくるのかということを考えないと。それで私がやったのは、師匠の価値観に近づくために、師匠の好きなものを片っ端から経験することだったんです。

小 山 素晴らしい!

志らく 談志が懐メロを好きなら、片っ端から昔の歌のCDやレコードを買って、「わぁ、これなんだ!」、師匠の好きな映画を観て、「うわぁ、こんな映画なのか」と。こういう趣味嗜好を、自分もどんどん好きになっていけば、同じような感覚の持ち主になっていくのだろうと。それ以外に方法はないと思って、私はそれをずっとやり続けました。そしたら真打になった時に、談志は「志らくは、価値観が俺に近い」と言ってくれた。10年でそう言ってもらえたのは大きかった。他の人は、談志の強烈なキャラを盗むけどね(笑)。

小 山 やはり落語のように伝承する藝でも盗めないものなのですね。私も(ウラディーミル・)ホロヴィッツ(20世紀の伝説的なピアニスト)、(アルトゥール・)ルービンシュタイン(同じく)のピアノに憧れますよ。盗めるものなら、本当に盗みに入りたいと思うほど(笑)。でも工夫して近づくことはできても、結局それは人真似にすぎないのですね。そういう問題を、志らくさんはどう考えていらっしゃるのかと思ったのです。
やっぱりね。


アリオスで演じるということ

編集部 話は尽きませんが、4月のアリオスでの公演の見どころ、聴きどころをそれぞれ伺いたいと思います。小山さんは、2008年の“ピアノ開き”コンサートではソロ・リサイタルをお願いしましたが、今回は沼尻竜典さんが指揮するオーケストラ「トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ」との共演になりますね。

小 山 まず、ショパン・コンクールの入賞から25周年ということですので、その思い出深い、ショパンのピアノ協奏曲第1番を選びました。

編集部 それからブラームスのピアノ協奏曲第2番。2年前にアリオスでリハーサルをしていたときも、大ホールの響きを確かめるようにこの曲の一部を何度か弾かれていたのが印象に残っています。

小 山 ブラームス自体は私、たぶん一番遠い作曲家だと思うんですけど。ただ、やっぱり好きなんですね。あの独特のぬくもりのなかに、ひげが湿ったような怪しい感じがあって、やっぱり憧れる存在です。

アリオスの大ホールについては、「ピアノ開きコンサート」で演奏した時に、すごくいい印象を持っています。それから、私が選定させていただいたピアノとの再会が楽しみですね。「ピアノも育つ」といいますからね、2年間でどう成長したか、確かめるのを楽しみにしています(注:2010年現在の話です)。

編集部 志らくさんは25周年ということで、「中村仲蔵(なかむらなかぞう)」という噺を取り上げることを、すでに予告しています。

志らく これは歌舞伎の噺ですね。私は別に歌舞伎に詳しくないし、誰よりも歌舞伎を観ているというわけじゃない。そんな私がなんでやるかっていうと、この噺のなかに、「師弟の関係の本質」と「演劇論」というテーマが入りやすいんです。
私は7年前に「下町ダニーローズ」という劇団を旗揚げしてから演出もするようになりましたが、日本中に400人ぐらいいる(当時)落語家のなかで、役者もする落語家はいっぱいおりますけれど、芝居を演出している落語家はゼロなんです。過去の歴史を紐解いても誰もいない。自分1人だけなんです。つまり、演劇論を落語のなかに入れられるのは私だけだということです。ですから、四半世紀やって、私にしかできない演目を聴いていただこうと思います。

編集部 では春爛漫のアリオスで、おふたりの熱演を心待ちにしています。ありがとうございました。

アリオスペーパーvol12小山実稚恵&立川志らく対談

■公演情報■
いわきアリオス10周年記念公演
小山実稚恵 ピアノ・リサイタル ~10年の時を刻んで

〔日 時〕2018年4月14日(土)14:00開演
〔場 所〕いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
〔料 金〕一般 3,000円、学生 1,000円(未就学児入場不可)
〔発売日〕2018年1月27日(土)10:00~(1回券・セット券とも)
公演&イベントガイド「小山実稚恵 ピアノ・リサイタル ~10年の時を刻んで」

日本ピアノ界の第一人者で、2017年11月には紫綬褒章も受章した小山実稚恵さんは、当館大ホールに保有する2台のピアノの選定者。2008年4月の開館記念公演にも出演しています。仙台生まれ、盛岡育ちの小山さんは東北への想いが深く、震災後、いわき市民への無料公演や「おでかけアリオス」小学校公演のために来市し、音楽で我々の背中を押してくださいました。今回は10年の時を経て成熟した大ホールのピアノの響きを、皆さまにお届けします。

〔ご予約・お問合せ〕
 アリオスチケットセンター 電話 0246-22-5800(10:00〜20:00 毎週火曜定休)
  ※2018年2月13日(火)、3月13日(火)は全館休館日

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