【事業レポート】おでかけアリオス 植田小学校 小山実稚恵ピアノ・コンサート

2018.3.21


小山実稚恵おでかけアリオス画像

この写真を見れば、ここで行われた子どもたちへのコンサートがどれだけ素晴らしかったのかが一目瞭然だと思います。
去る1月23日(火)、日本ピアノ界の第一人者、小山実稚恵さんがいわき市を訪れ、2011年以来7年ぶりに「おでかけアリオス」学校公演に出演しました。
2007年冬に、アリオスの大ホールに置く2台のスタインウェイ・ピアノを選定していただいただいて以来、小山さんといわき市の関係は続いています。この4月14日(土)には、いわきアリオスの10周年を記念し、ソロ・リサイタルを開催します。
通常のコンサートでは、ピアニストが舞台上で口を開くことは滅多にありません。しかし1月の「おでかけアリオス」では、演奏の合間にお話があったり、子どもたちに間近で聴いてもらったりするなど、小山さんのお人柄や想いが随所に滲み出たプログラムになりました。そんな「おでアリ」の様子を、小山さんが来市するたびに取材を続けている“番記者”柿沼美佳さんにレポートしていただきました。


■プロフィール
小山実稚恵(こやま みちえ)ピアニスト
チャイコフスキー、ショパンの二大コンクールに入賞した唯一の日本人ピアニスト。ショパン・コンクールを始め、チャイコフスキー、ロン=ティボー、ミュンヘン他のコンクールで審査員を務める。2011年の東日本大震災以降、被災地の学校や公共施設等で演奏を続け、仙台では2015年より自ら企画立案したプロジェクト『こどもの夢ひろば "ボレロ"』も開始。CDは 『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』他、ソニーより30枚をリリース。2005年度 文化庁芸術祭音楽部門大賞、2015年度 文化庁芸術祭音楽部門優秀賞、2016年度 芸術選奨文部科学大臣賞、2017年度 秋の褒章にて紫綬褒章受章。いわきアリオスには、2008年、10年、11年、13年と節目の公演に必ず登場している。


柿沼美佳(かきぬま みか)フリージャーナリスト
 福島県白河市生まれ、小学4年次にいわきへ転居。大学時代に東京で様々なことを覚え、福島にUターン。地元新聞社で13年弱の記者生活を送る。書くことを”仕事”にしようと思うようになり、2015年夏からフリーランスに。音楽の好みは幅広いが、好きな曲はラフマニノフのピアノ協奏曲第3番とドヴォルザークの弦楽四重奏曲アメリカ、ショパンの舟歌。



【おでかけデータ】
アーティスト:小山実稚恵(ピアノ)
日にち:2018年1月23日(火)
    1回目11:25〜12:10/2回目13:35〜14:25
会場と対象:いわき市立植田小学校(5年 104名)

<プログラム>
①ショパン:ワルツ第7番
②      :ワルツ第6番「子犬のワルツ」
③スクリャービン:左手のためのノクターン
④ラフマニノフ:鐘
⑤モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番 第3楽章「トルコ行進曲」
⑥ショパン:ポロネーズ第6番「英雄ポロネーズ」
⑦シューベルト:即興曲作品90-3

小山実稚恵おでかけアリオス画像

取材・文:柿沼美佳(フリージャーナリスト)
撮影:田子和司(※を除く)

すっごいピアニストなんだよ!と、大仰に押し付けるように言わずとも、子どもたちの心には、それぞれに感じ、残るものがあったに違いないと思うおでかけアリオス。大人が羨ましい、と思える体験をしたのは、植田小の5年児童約100人。音楽室で、手の届く距離で、小山さんの音色を楽しんだ。

小山実稚恵おでかけアリオス

この日取り上げたのは全7曲。ショパンのワルツ第7番に続いて演奏された「子犬のワルツ」では、「どんな犬かを想像して聴いてみてください」と呼びかけた。児童たちは、前の列の隙間から、間断なく動き回る小山さんの指を注視した。なかには一緒に指を動かす児童も。後ろから見守る私には、なんとなく児童たちの脳裏に浮かぶ子犬が見えてきたような思いがした。

小山実稚恵おでかけアリオス画像3

2曲を終え、同じ作曲家ながらも、テイストが異なることに触れた。「それぞれの作曲家は、いい曲を作ろうという気持ちもあるけれど、その時の気持ち、寂しい、悲しい、ハッピー、負けないようにとか、その時の気持ちも込めている。その思いを聞いてほしい」と語りかけた。児童たちにとっては、リズムを楽しむだけではない、新しい楽しみ方が1つ加わったのではないだろうか。

生まれた瞬間の音を
体感してほしい


4曲目は、浅田真央さんがちょうど8年前、バンクーバー・オリンピックのフリー演技で踊った曲といえば、思い出す人も多いかもしれない。重圧に苦しみ、救いを求めるかのように聞こえる重厚なメロディと、可憐な十代のスケーターのギャップに驚いた選曲ながらも、彼女の演技は、リンクに感動の鐘の音をうち鳴らした。

小山さんは震災後、鳴り響く鐘の音に、復興への希望の祈りを感じ、「ラ・カンパネラ」(リスト)や、このラフマニノフの「鐘」を演奏していた。その当時と同じ気持ちで選曲したのかと考えたが、そうではなかった。音楽室の窓から見える雪景色に、寒い地域の曲を演奏したいと思って選んだのだという。ラフマニノフは、極寒の地ロシアの出身だ。

小山実稚恵おでかけアリオス画像

この曲では、児童たちは席を離れてピアノの周りを取り囲んだ。この10年近く、被災地をはじめ各地でこうしたアウトリーチを行っている小山さんにとっても、初めての試みだった。なぜ、そうさせたのか。「私は弾いているから、生まれたての音をすぐに感じることができるけど、少しでも、生まれた瞬間の音を聴いてほしくて」。私も、児童と一緒に、近くで響きを楽しんでみた。

小山実稚恵おでかけアリオス画像

最初の一音が鳴ると、その迫力に口を開けた児童たち。ズシンと、腹の奥に響いた。ある児童は、じっと手元を見つめ、ある児童はハンマーの動きに目を凝らした。思い思いに、曲に触れた。

不安や焦り、そんなことを感じさせる曲と書けば、小学生には難しいと思われるかもしれないが、それは大人の勝手な思い込みに過ぎない。小山さんが言うように、それこそ、音楽にもいろんな世界がある、意味がある、思いがあること、それを何となくでも感じられたはず。本物の響きは、言葉を越えて、心を揺さぶるのだから。

音楽でしか伝えられない
「心の動き」がある


6曲目の英雄ポロネーズは、「本日のメインディッシュ」と表現した。推進力あふれるメロディーは、間違いのない名曲。小山さんは、震災後にこの曲に力をもらってきたのだという。前向きな気持ちが沸き起こる曲に、児童たちも胸を張るようなしぐさを見せたのだった。

そしてラストはシューベルトの即興曲。この日、一番伝えたかったことだろう思いを語り、ピアノに向かった。「人間には気持ちがいろいろあって、直接言葉で言えないこともある。この曲は、心の微妙な気持ちをピアノで現した。いろんな気持ちを寄せて聴いてほしい」

小山実稚恵おでかけアリオス画像

思春期を迎え、さまざまに思い悩むことも出てくるだろう子どもたち。シューベルトの気持ちが表現された、叙情的な美しいメロディで、心に去来したものは何だったのだろうか。深く、静かな感動が広がった。

時に歴史的な背景にも言及し、心象風景にも触れ、妥協のない本当の音が響いた、ぜいたくな音楽の時間。100人のみずみずしい感性に、とびきりの栄養が注がれた。

小山実稚恵おでかけアリオス画像

前日、ラフマニノフを演奏しようと思った冬景色は消え去り、校庭の雪だるまは太陽の光を浴びて、水を滴らせていた。小山さんの音色はこの太陽の光のように、あたたかい思い出をもたらしたり、音楽へのイメージを変えてくれたかもしれない。きっと、音楽との距離を縮めることができたはず。これから思い思いに音楽を楽しみながら、大人になったとき、素敵な出会いを思い返し、本物に触れる素晴らしさを次に伝えてほしい、そう願っている。


■これからの公演情報■
いわきアリオス10周年記念公演
小山実稚恵 ピアノ・リサイタル ~10年の時を刻んで

〔日 時〕2018年4月14日(土)14:00開演
〔場 所〕いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
〔料 金〕一般 3,000円、学生 1,000円(未就学児入場不可)
〔発売日〕2018年1月27日(土)10:00~(1回券・セット券とも)
公演&イベントガイド「小山実稚恵 ピアノ・リサイタル ~10年の時を刻んで」

日本ピアノ界の第一人者で、2017年11月には紫綬褒章も受章した小山実稚恵さんは、当館大ホールに保有する2台のピアノの選定者。2008年4月の開館記念公演にも出演しています。仙台生まれ、盛岡育ちの小山さんは東北への想いが深く、震災後、いわき市民への無料公演や「おでかけアリオス」小学校公演のために来市し、音楽で我々の背中を押してくださいました。今回は10年の時を経て成熟した大ホールのピアノの響きを、皆さまにお届けします。

〔ご予約・お問合せ〕
 アリオスチケットセンター 電話 0246-22-5800(10:00〜20:00 毎週火曜定休)
  ※2018年2月13日(火)、3月13日(火)は全館休館日

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