【さきどりアリオス】 いわき室内楽協会コンサート第21回「フランスの至宝ジェラール・プーレ氏を迎えて」 曲目解説(プログラム・ノート)先行掲載

2018.4.18

いわき室内楽協会

いわき室内楽協会コンサート2018/2019<第21回>
「フランスの至宝ジェラール・プーレ氏を迎えて」
プログラム・ノート全文掲載


室内楽協会ちらし4月20日(金)に開催が迫った「いわき室内楽協会コンサート2018/2019<第21回>『フランスの至宝ジェラール・プーレ氏を迎えて』」。今回は、室内楽協会のディレクター、丸山泰雄さんが「ぜひ、いわきの皆さんにご紹介したかった」と語るフランス・ヴァイオリン界の巨匠、ジェラール・プーレ氏をお招きします。
今年没後100年を迎えたフランスの作曲家ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ(1917)を、作曲家のピアノで初演しているレジェンド・ヴァイオリニスト、ガストン・プーレを父に持つジェラールさんが、その“伝家の宝刀”、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタをいわきで披露します。
そしてプーレさんがもっとも敬愛する作曲家、ブラームスの室内楽作品を、丸山さん(チェロ)、馬渕昌子さん(ヴィオラ)、馬渕清香さん(ヴァイオリン)、川島余里さん(ピアノ)という日本の音楽仲間との共演でお愉しみいただきます。先週からリハーサルも絶好調で進んでいます!
本日は、公演当日にお配りするパンフレットに掲載したプログラム・ノートを事前に一挙掲載します。今回もいわきアリオス音楽学芸員の足立優司が、気合いを入れて執筆。鑑賞前にじっくりお読みください。



♪プログラム♪
C.ドビュッシー (1862-1918):ヴァイオリン・ソナタ
J.ブラームス (1832-97):ピアノ四重奏曲第2番 イ長調 作品26
            ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34

文:足立優司(企画制作課 音楽学芸員)

ガストン&ジェラール・プーレ親子 フランス近代音楽を代表し、なかんずく“現代音楽への扉を開いた”作曲家として名高いドビュッシーが亡くなって、今年で100年。彼は永らく「フランス印象派」の名でカテゴライズされ、その真価が覆い隠されてきた芸術家の一人だが、彼が「印象派」とは異なる地平を見つめていたことは、その音楽を聴けば一目瞭然だ。今回は、このフランスを代表する大作曲家に所縁の深い、素晴らしい演奏家を迎えて、まずはドビュッシーが死の前年に完成した“白鳥の歌”、〈ヴァイオリン・ソナタ〉をお聴きいただくところから始めたい。
 右の写真には、二人の人物が写っている。ピアノの前で楽譜のページをめくりながら教える年配の男性と、その横に立ち、真剣な眼差しで楽譜に見入る若い男性。これは本日お迎えするヴァイオリン奏者、ジェラール・プーレ氏の若き日の写真であり、教えているのはその父上、ガストン氏(1892~1974)だ。ガストン・プーレ氏こそは、プーレ弦楽四重奏団のリーダーとして度々ドビュッシーの〈弦楽四重奏曲〉を公開で演奏し、作曲者本人の最晩年にその最良の友となった名ヴァイオリニストだった――


クロード・ドビュッシー 1908年、ドビュッシーはエドガー・アラン・ポー(1809~49)の戯曲『アッシャー家の崩壊』を基にしたオペラの構想を立てはじめる。メーテルリンク(1862~1949)原作のオペラ〈ペレアスとメリザンド〉の大成功によって「ドビュッシー主義者」と呼ばれるシンパまでが現れたが、元来群れることを嫌う彼は、そうした風潮を一気に吹き飛ばすようなインパクトの強い作品を求めていた。これは「主人公が自らに瓜二つの双子の妹に近親相関的な愛情を抱きつつ、病弱な彼女に自らの死を感じて、妹を屋敷の地下に生き埋めにしてしまう。ところが彼女は、血染めの姿で兄の前に現れる……」という陰惨な狂気の物語だ。そのころからドビュッシーは病魔に憑かれてしまのだが、〈アッシャー家〉は常に彼の闘病とともにあり、同時期の作品に数多くの痕跡を残しつつも、未完のまま遺された。最もはっきりしたその痕跡が、同じスケッチ帖で作曲された〈ヴァイオリン・ソナタ〉にある。第3楽章の循環主題は、元は〈アッシャー家〉の主人公が歌うアリアだったのだ。
 1914年、フランスはドイツに宣戦布告し、第一次世界大戦に参戦。ドビュッシーに憑いた病はすでに彼を蝕んでいたが、愛国心の強い彼は、パリの空に爆撃音が鳴り響くのに大きなショックを受ける。一時はパリから避難するも、すでに病状は深刻で、ほどなくして戻らざるを得なかった。翌年にはがんと診断されて手術を受け、当時最新の放射線治療も受けたが、ベッドから起き上がれない状態が続いていた。10カ月に及ぶ療養でようやく作曲ができるようになった彼は、〈ヴァイオリン・ソナタ〉に着手する。
 ここで、ガストン・プーレ氏が登場する。実は1916年、プーレ四重奏団は作曲者ドビュッシーの前で〈弦楽四重奏曲〉を演奏する機会を得ていた。その後親交が深まり、1917年にドビュッシー本人から直接〈ヴァイオリン・ソナタ〉へのアドヴァイス・協力を要請されることになる。そして完成したこの作品を、作曲者自身のピアノとの共演で初演。曲の始まりは深い陰影の中、はかなげな幻想と呪術的な拍動の交錯から生まれる悲しみが支配している。やがて激情ほとばしる盛り上がりに至る主部と、のびやかで甘美な旋律がヴァイオリンで奏でられる中間部が対比された第1楽章。軽快で技巧的なパッセージが支配する第2楽章を経て、“終わり方”にこだわり、5回にわたり書き直された終楽章。半ば自嘲気味に“終わりたがらないヴァイオリンとピアノのためのソナタ”と揶揄さえしたそれは――人間的な対比の精神によって、爆発するような喜びに満ちています(1917年5月7日、ロベール・ゴデへの手紙)――という歓喜に満ちたものとなった(約15分)。

 ジェラール・プーレ氏は、父直伝によるドビュッシー〈ヴァイオリン・ソナタ〉の正統な継承者である。まさしく“サラブレッド”なのだが、氏は少年のころ、20世紀を代表する伝説の巨匠ヴァイオリニスト、ヘンリク・シェリング(1918~88)と出会い、「釘付けになった」と語る。11歳にしてパリ音楽院に入学、やがてシェリングのもとで15年間学んだ氏は、フランス音楽の伝統を受け継ぐのみならず、ヨーロッパ・ヴァイオリン界随一の巨匠として、80歳を迎えた現在も世界の第一線で活躍し、“至宝”と称えられている。

ブラームス画像 そのプーレ氏が最も敬愛する作曲家として名前を挙げるブラームス。本日の2曲目は、そのブラームスが若き日に書き上げた傑作、〈ピアノ四重奏曲 第2番 イ長調〉をお聴きいただく。この作品は1855年ころ、デュッセルドルフ――シューマン家に同居していた時期――で〈同 第1番 ト短調〉と同時に着想されたとみられる。その前年、自ら師と思い定めたローベルト・シューマン(1810~56)が自殺未遂を図って精神病院に送致されてしまい、彼はクララ・シューマン(1819~96)と幼い子供たちを支えようと、シューマン家に住み込みで手助けをするようになる。しかし治療も虚しく、シューマンは2年後に他界。ブラームスとクララの距離は自然と近付いていたが、彼は恩師シューマンを強く尊敬していたためそれ以上のことを望まず、内面に大きな葛藤を抱え込むことになった。〈第1番 ト短調〉はそうした彼の心情や憂愁、暗くも雄々しい情熱の表れとも考えられる。一方、〈第2番 イ長調〉は対照的に明るく優雅で、叙情的な性格を持たされているが、ブラームスは度々そうした対照的な作品の筆を並行して進めることがあった。そうすることで精神の平行を保っていたのかもしれない。この2作品は作曲の進行もほぼ同時で、一時合唱作品に関心が移ったため、ともに作曲を中断。しかしシューマンが亡くなった翌年の1857年に、クララの元を離れてデトモルトの宮廷音楽監督に就任したのを機に室内楽への興味が再び沸き上がり、1861年に〈第1番〉、翌62年にはこの〈第2番〉が完成した。
 第1楽章では、特徴的なリズムを持つ明るい雰囲気の動機と滑らかな旋律を組み合わせた第一主題がピアノから弦に受け継がる。それを様々に変化させながら進むと、やがて軽快な第二主題が表れる。第2楽章は明るい中にも悲壮感を忍ばせた、ロンド形式による緩徐楽章。続く第3楽章はスケルツォと題されているが、ほのかな温もりを感じさせる穏やかな楽想が特徴。そして終楽章は「ジプシー風」と明記された〈第1番〉ほどではないにしても、同じようにジプシー音楽の影響を感じさせる一方、むしろゆったりとした雰囲気を醸し出す舞曲風のロンドで、最後は輝かしいコーダによって閉じられる(約48分)。

 本日の最後は、同じくブラームスの〈ピアノ五重奏曲〉。1864年の終わりごろに完成した。最初はチェロ2台を含む弦楽五重奏曲として作曲が進められ、1862年に一旦は完成した。しかしクララ・シューマンや、親友のヴァイオリン奏者ヨーゼフ・ヨアヒム(1831~1907)に意見を求めたところ評価が芳しくなく、64年に〈2台ピアノのためのソナタ〉版への改作を経て、弦楽とピアノの良さを併せ持った〈ピアノ五重奏曲〉として完成させるに至る。ブラームスが遺した室内楽は24曲あるが、特に若いころには、古典的に確立され、ベートーヴェンが崇高な高みへと導いた「弦楽四重奏」に大きな重圧を感じており、得意のピアノを採り入れた作品が17曲に上るなど独自の編成を模索・追究し、いずれも高い評価を得ている。特に〈ピアノ五重奏曲〉は、ピアノと弦楽器群の対比が鮮やかで、ピアノという楽器の特性を最大限に生かしながら、協奏曲のような充実した音世界を創り上げていることが大きな特徴となっている。この作品は確かにハイドンやベートーヴェン、シューベルトの伝統に基づく古典的な構成美を保っている。しかしブラームス独自の暗さや渋み、また若々しく熱いロマン派的な情緒と諦観が、緻密な構成の中に込められた傑作で、完成の翌年、1865年に初演されると瞬く間にシューマンの作品と並ぶこのジャンルの代表的な曲となり、広く演奏されるようになった。
 曲はいかにもブラームスらしく、力強さの中に翳りを湛えた音楽が威厳を持って進む第1楽章、それに対する優しく抒情的な第2楽章の後、生き生きとしたスケルツォと柔和なトリオが組み合わされた、充実した規模を誇る第3楽章が置かれている。終楽章では暗く神秘的な序奏に続き、様々な表情を持つ主題が次々に現れて、駆り立てられるように全曲が結ばれる。(約45分)。


■公演情報
いわき室内楽協会コンサート2018/2019
<第21回>「フランスの至宝ジェラール・プーレ氏を迎えて」

〔日 時〕2018年4月20日(金)19:00開演
〔場 所〕いわき芸術文化交流館アリオス 音楽小ホール
〔出 演〕ジェラール・プーレ(ヴァイオリン)
     馬渕清香(ヴァイオリン) 馬渕昌子(ヴィオラ) 丸山泰雄(チェロ) 川島余里(ピアノ)
〔料 金〕全席指定/4,500円 学生 2,000円
公演&イベントガイド いわき室内楽協会コンサート2018/2019
 <第21回>「フランスの至宝ジェラール・プーレ氏を迎えて」

〔ご予約・お問合せ〕
 アリオスチケットセンター 電話 0246-22-5800(10:00〜20:00 毎週火曜定休)

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