カニサレス・フラメンコ・クインテット特集 vol.1
特別寄稿・鈴木大介(ギタリスト)

2018.6.19


 フラメンコ・ギタリストとして、そして、クラシック界からも熱い注目を集め世界中で演奏活動を展開し続けているカニサレスさんの魅力、そしてフラメンコ、スペインの魅力をご紹介していく「カニサレス・フラメンコ・クインテット特集」、第2弾にご紹介したいのは、2016年9月に、アリオス・ワンコインコンサートに出演したギタリスト・鈴木大介さんが、これから初めてカニサレスさんに出会ういわきの皆さんのためにと、寄せてくださった文章です。
 カニサレスさんがフラメンコからクラシック音楽の世界への越境者であるなら、鈴木大介さんも、クラシック音楽の世界からの越境者といっても過言ではないギタリスト。実は幸運なことに、4月に行われたお2人のインタビューの場に同席させていただくことができたのですが、カニサレスさんは本当に楽しそうにお話しされていました。
→(リンク)鈴木大介さんによるカニサレスインタビュー Qetic

 ギタリスト同士だから理解できる、楽曲の面白さ、プレイの妙。音源を聴きながら、そしてメモを取り出して、「ここ! この部分の進行がすごい!」「よく気づいてくれたね! 嬉しいな、そうなんだよ、ここはね……」みたいな(笑)。そのときお2人は「ギター少年」のようでした。前置きが長くなってしまいましたが、鈴木大介さんの文章を、どうぞ!
(ここまでの文:企画制作課 前田優子)



文:鈴木大介(ギタリスト)
写真提供:(株)プランクトン


(鈴木大介さんとカニサレスさん)

 カニサレスさんのギターは深淵だ。
 フラメンコの歓喜溢れるリズム、哀感に満ちた歌声、誰もが心踊らせずにはいられない熱いパッションは彼のギターの母なる大地。そこにクラシックやポピュラー音楽の活動の中で培われた緻密さ、大胆さ、果て無き地平を見据える思慮深さが花開いている。たいせつなのは自分自身であること、という飽くなき内なる探求の成果だ。

 今年リリースされた、8年ぶりとなる新作フラメンコアルバム『洞窟の神話』では、ギターのみによって紡がれているのにオーケストラのように芳醇で多彩な響きと、真摯な音色だけが持つたくましい音楽の説得力が聴き手を魅了する。

(アルバム『洞窟の神話』のジャケット写真)

 子供の頃から身近にあったフラメンコの伝統は、プラトンが比喩で語るところの“洞窟の中の影”(※1)のような存在であり、その柔らかな光と神秘的な音は彼にとってかけがえのないインスピレーションの源となる豊かで深い表現を備えた言語であるのに対し、音楽院(※2)で学んだ音楽の基礎は、洞窟の外の“太陽の光の言語”で、この二つの世界のバランスをいかによく取り入れるかという葛藤を作曲する際に感じるというカニサレス。

 「フラメンコの本質を失うことなく、フラメンコの音楽的表現をより豊かにするために、インスピレーションと知識を融合させることが、私の強い信念です」と語る彼の新しい音楽は、現代のフラメンコが獲得したモダンなかっこよさ、スタイリッシュな機敏さとともに、新しい本流、これからのフラメンコ音楽の‘幹’ともなりそうな風格とダンディズムを兼ね備えている。

 大成功となったサイモン・ラトル指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による「アランフェス協奏曲」の演奏(※3)以後、近年カニサレスが手がけたアルベニス、グラナドス、ファリャのピアノや管弦楽のための作品の編曲、演奏(※4)からも音楽的な視野を大きく広げたと語るカニサレスだが、殊にファリャの作品からはファリャの時代、つまり100年前のフラメンコのサウンドを垣間見ることがあったという。また、スカルラッティの鍵盤のためのソナタの編曲を通じ、いまだフラメンコが成立していなかった17世紀の、やがてフラメンコが取り入れることになるハーモニーの機微を聞くことができたとも話している。

 今回の来日では、その彼の新しいフラメンコの音楽が、彼自身が最も信頼する仲間達とのユニットで展開される。カンテ(唄)やバイレ(踊り)が加わって一層華やぎを増したカニサレスさんのフラメンコの現在を、舞台向けに練り上げられたプログラムとしてライヴで体感できるのは大きな驚きと喜びをもたらしてくれるに違いない。

                                           鈴木大介


(注)
※1 古代ギリシャの哲学者プラトンの著書『国家』に出てくる「洞窟の比喩」より。
※2 9歳の時からカニサレスはクラシック音楽を学ぶため、学校とは別に音楽院に入っていました。
※3 2011年、スペインの国立劇場「テアトロ・レアル」で行われたコンサート。フラメンコ・ギタリストによる初のオーケストラ共演を成功させたとして、クラシック音楽界で大きな注目を集めました。
※4 スペインの「国民楽派」(19〜20世紀にかけて民族主義的な音楽を発表した音楽家たちの総称)の作曲家による作品を、カニサレス自らがギターソロに編曲、演奏したアルバムのシリーズ。

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