【エンゲキ☆アリペ】芥川賞作家・柳美里さんとふたば未来学園高校の挑戦! 青春五月党復活公演『静物画』

2018.9.7



文:ハギハラヒロキ(いわきアリオス 企画制作課 演劇・ダンス事業グループ チーフ)
撮影:ハギハラヒロキ(男子チーム)、青春五月党制作チーム(女子チーム)

皆さん、福島県南相馬市小高(おだか)にある本屋「フルハウス」をご存知でしょうか? 芥川賞作家であり、2015年から南相馬市で暮らす作家の柳美里(ゆう・みり)さんが、2018年4月にご自宅をリノベーションしてオープンさせた、新しい本屋です。柳美里さんと、作家や演劇関係者の友人24人が選んだ本だけを販売する、本屋のセレクトショップと呼べるユニークなお店です。
小説家として著名な柳美里さんですが、劇作家としても『魚の祭』で1993年に岸田國士戯曲賞を史上最年少で受賞し、この記録は今も破られていません。芥川賞は1996年下半期に『家族シネマ』で受賞されているので、作家としてのスタートは、実は演劇が先なのです。1988年に「青春五月党」という劇団を立ち上げ、1995年までの7年間で様々な演出家と手を組み、ご自身の戯曲を上演されていました。そんな「青春五月党」が今年、23年ぶりに再結成されるとのことで、注目を集めています。


※写真中央が柳美里さん

「青春五月党」再結成の第一弾となる公演は、1990年初演の『静物画』。会場は本屋「フルハウス」に併設され、来年の初旬に本格オープンとなる劇場「La MaMa ODAKA」。出演するのは、なんと「福島県立ふたば未来学園高等学校」の演劇部に所属する高校生たち。芥川賞作家が、福島に新しく生まれる劇場で、福島の高校生たちと一緒に、伝説とも呼べる劇団を再結成しようとしている。10代後半から演劇一筋で生きてきたわたしにとっては、興味津々で垂涎ものの公演であることは言うまでもありません。幸いなことに、演劇部の顧問を務めている小林俊一先生と齋藤夏菜子先生は、ふたば未来学園高校に赴任される前、それぞれ磐城桜が丘高校といわき総合高校で、同じく演劇部の顧問をされていました。その縁もあって、ふたば未来学園には2015年の開校以来、何度かお邪魔させていただいており、今回も柳美里さんとの稽古を見学させていただくことができました。この公演を1人でも多くの方に観ていただきたいと思い、このブログではその稽古の様子をレポートします。





『静物画』は高校の教室を舞台に、女子高生たちによって繰り広げられる作品ですが、今回は女子チームと男子チームの2バージョンが上演されます。わたしが稽古場に伺った日は、男子チームの通し稽古が行われていました。(※女子チームの写真は青春五月党制作チームにご提供いただきました。)
この戯曲は28年前に書かれたものですが、柳美里さんは今回の上演に際して、大幅な書き直しをされたそうです。最も特徴的なのは、途中で語られる2011年3月の東日本大震災での体験談です。当時、小学校低学年だった彼ら・彼女らの実体験を、柳美里さんがセリフとして書き起こし、本人たちが語ります。柳美里さんが、彼ら・彼女らは震災のことを語ることができる、もっとも幼い世代だと言っていたのが印象的でした。彼ら・彼女らより下の世代は、震災当時に幼過ぎて、体験したことを言葉できちんと説明するのが難しい。当時の体験談で最も幼い記憶を言葉にできるのが、今の高校生たちであり、彼ら・彼女らが当時のことを言葉で語り継いでいくことの大切さを感じました。









6人の高校生たちが、文芸部の部室で部活動として「授業ごっこ」を始めます。先生役と生徒役に分かれて、授業と称したジェスチャーゲームなどのたわいない遊びに興じる高校生たちを微笑ましく見ていると、ときおり垣間見える「時間」や「命」に触れる、ガラス細工のように繊細な瞬間に、ハッとさせられます。高校生たちの持つ無邪気さやエネルギーと、柳美里さんの胸に深く突き刺さる言葉が出会うことで、アンバランスでありながら魅力的な瞬間が随所に立ち現れます。それは、子どもでもなく大人でもない、高校生特有のアンバランスな感覚があってこそ、成立するものだと感じました。彼ら・彼女らにしか演じることのできない『静物画』が確かにありました。



この公演には高校生たちだけでなく、顧問である小林先生と齋藤先生が出演する場面もあります。かなり重要な場面なので詳しくは書けませんが、役作りにはかなり悩まれているようでした。部活の顧問役ということで、普段と同じようにすれば大丈夫かと思いきや、そんなに簡単なことではありません。作品の雰囲気を壊さないように、どのように演じるべきか、演出でもある柳美里さんに何度も質問をしていました。顧問2人の奮闘にもご注目ください。



稽古の最後には、1人ずつその日の感想や、今後の課題を話し合う時間が毎回あるそうです。高校生たちが自発的に自分たちの課題を見つけ、考えて実践する力を身につけるために、とても有意義な時間です。また、柳美里さんからの演出は、どれも高校生たちの目線に合わせたものばかりでした。演出家が指示を出し、それに合わせて役者が動くものではなく、高校生たちがその時に感じたことを丁寧に話し合い、柳美里さんの体験談を交えながら、人が生きる上で感じる悲しみや痛み、それに対する人の在り方を考え、登場人物に命を吹き込んでいきます。
出演者の配役にもこだわりがあり、事前に行ったワークショップで高校生たちの性格や人柄、物事の考え方をしっかりと見極めた上で、役が振られているそうです。なので、高校生たちの演技はどれも自然で、彼ら・彼女らが今、生きている瞬間を切り取ったような、瑞々しさがありました。





稽古が終わったあとも、高校生たちは柳美里さんのもとに行き、役のことや自身の課題についてアドバイスをもらっていました。本番までの限られた時間で、懸命になにかを掴み取ろうとし、真摯に演劇に取り組む高校生たちを、心から応援したくなります。

『静物画』は9/14(金)〜17(月・祝)の4日間、6公演となっています。9/14(金)と9/17(月・祝)は18時開演、9/15(土)と9/16(日)は14時30分と18時開演です。会場の最寄り駅は小高駅ですが、いわきから電車をご利用の場合は、いわき駅から富岡駅まで行き、富岡駅から浪江駅まで代行バス、浪江駅から小高駅まで再び電車となります。所要時間は約2時間です。
14時30分開演の回は、10時27分にいわき駅発で、12時29分に小高駅着。帰りは16時14分に小高駅発で、17時46分にいわき駅着の電車があります。到着から開演時間まで2時間ほどありますが、せっかくなので小高の町並みを堪能されてはいかがでしょうか。
18時開演の回は16時13分にいわき駅発、17時42分に小高駅着の電車がありますが、いわきまで帰る場合は18時43分に小高駅発の電車が最終となっており、間に合いません。電車を利用される場合はご注意ください。

最後に、チラシに掲載されている柳美里さんの言葉を転載します。

18歳の時、青春五月党を旗揚げした。
旗揚げしたと言っても、わたしは独りで、はじめて書いた戯曲「水の中の友へ」だけを握りしめて途方に暮れていた――。
高校を1年で退学処分になり、家出したくて「東京キッドブラザース」というミュージカル劇団に入ったが、2作だけ舞台に立って自分は俳優には向いていないということがわかり、退団したのが18歳の時だったのだ。
高校、劇団、二つのことをやめたわたしは、挫折感に打ちのめされ、絶望の淵に立っていた。
十代半ばから太宰治の小説を繰り返し読んでいた。神田の古書店に行っては、評伝を探して買い求めていた。檀一雄の『小説太宰治』に、都新聞(現在の東京新聞)の入社試験に落ちた若かりし頃の太宰治を励ます会を友人たちが開き、五月だったことから誰かがふざけて「我ら青春五月党」と言った、というエピソードが書いてあった。
青春五月党、に決めた。
しかし、仲間がいなかった。
「水の中の友へ」は自画像を描く少年が主人公だったので、芸大の校門に立って、良さげな学生を見つけては、「青春五月党という劇団を主宰している者なんですが、旗揚げ公演に出ませんか?」とスカウトしたり、BARに呑みに行ってはバーテンに声をかけ、病院に行っては看護師に声をかけた。
俳優に出演してもらいたい、とは思わなかった。
俳優ではない職業の人の肉体を舞台上で見てみたい、と思った。

出演者を集めるのに1年かかった。
旗揚げ公演を行ったのは、19歳の時だった。
10作目の『Green Bench』から23年が過ぎた。
四半世紀も演劇から離れるつもりはなかった。
1、2年小説を書いたら、また戯曲を書いて上演しようと思っていたが、次から次へと休みなく書き続け、気づいたら小説を書くことを仕事にしていた。
いま、わたしは、福島県南相馬市小高区で本屋「フルハウス」を営んでいる。
人生は不思議だ。
どこで、どうなるか、全くわからない。
思いがけない縁が繋がると、何か意味があるのだろう、とわたしはとりあえず自分の力を抜く。何も考えず、引き寄せられる力に自分を委ねることにしている。
そしてまた、縁の糸の端を握りしめていたら、ふたば未来学園の演劇部と繋がった。
わたしは、50歳。
校長先生と同じ歳になっていることに驚いた。
浦島太郎の気持ちがよくわかる。
何もかも違っていて、19歳の時以上に途方に暮れているけれど、でも、わたしには、まだ時間がある。
ふたば未来学園高校演劇部の部員たちもいる。
青春五月党、復活します。

■青春五月党復活公演vol.1「静物画」
〔日時〕2018年9月14日(金)18:00(A)
          15日(土)14:30(B)、18:00(A)
          16日(日)14:30(A)、18:00(B)
          17日(月・祝)18:00(B)
          ※Aが女子チーム、Bが男子チーム
          ※各回限定80席
          ※上演時間は約70分を予定、開場は各回開演の30分前
           整理券配布の上、整理番号順の入場となります
〔会場〕本屋フルハウス併設「La MaMa ODAKA」(南相馬市小高区東町1-10)
〔料金〕全席自由/3,000円(当日3,500円)、高校生以下 1,000円
〔作・演出〕柳美里
〔出演〕福島県立ふたば未来学園高等学校 演劇部
    小林俊一、齋藤夏菜子(演劇部顧問)
    オーハシヨースケ(9/14のみ)、新田周子
〔ご予約〕チケットぴあ
〔お問合せ〕フルハウス 0244-26-5080

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